大学受験 英語学習法 ~認知心理学、外国語習得の視点~
- 2024.05.24 | 高校生・受験生の学び(現在)
認知心理学や言語学を踏まえた科学的な指導
学問ノススメでは、科学的な指導法を心がけることを講師陣(京大生や九大生など学生講師陣)に研修しています。その一例として、英語学習について、心理学や言語学を参考にして学習法のコツとしてまとめましたので、3回に分けて紹介します。
1.言語習得の理論、外国語(第2言語)の学習に関する考え方(母国語との比較)
2.認知心理学を踏まえた英語学習法(文法、語彙)
3.実践的な英文法解説(ネイテイブスピーカーの視点)
まず、言語習得の理論、外国語(第2言語)の学習に関する考え方から。
言語習得
言語習得について、異なる以下の3つの視点があります。
1.生得主義的視点
人は生まれながらにして、言語習得能力を持っている。知識や経験のない子どもが短期間で言語を理解して話すことができるようになる根拠を支持する立場、認知過程の中でも言語は特別という立場です。
2.行動主義的視点
人は脳や口腔など言語に関する生物学的遺伝要素を持つが、言語習得には言語環境からの情報が重要という立場です。言語も他の知識や技術の習得と同じで、言語は特別という考え方はとっていません。
3.相互作用主義的視点
言語習得には、生得的能力や言語環境をはじめとして、認知能力、生理学的発達(例:口腔や音声処理)、社会環境など多くの要因が関わっており、様々な要因が相互作用することで言語習得が進むという立場です。
どの立場が決定的に正しいかという問題提起ではなく、言語習得については、深く広い考察や議論がされている奥深い分野であるということの説明です。AIの進化で自動翻訳もかなり精度があがっていますが、言語習得のメカニズムは学術的にもまだまだ未解決の分野です。
本稿の焦点は言語習得の中でも、外国語の習得です。母国語習得や第2言語(英語)を英語圏で生活することで習得するという方々が対象ではありません。外国語(英語)を学校での学習を通して習得する高校生がターゲットです。が、言語習得のメカニズムを頭に入れておくことが、外国語学習の実践上も重要なので、ご紹介しています。
母国語習得、第2言語習得と外国語習得
母国語習得はもちろん、英語圏での生活における第2言語習得(帰国子女や移民)は、家庭や社会・メデイアなどを通じた自然な環境での習得が期待できます。文法や話法などの言語構造やルールに関して明確な説明がないままでも生活を通じて習得できます。上記の3つの立場のどの立場においても、説明できます。
一方、学校教育で外国語を習得する場合には、文法構造など言語に関する知識や技能の構築が重視されます。このケースでの学習指導においては、暗示的な学習よりは、”明示的な学習”が重視されます。学習対象や学習目標が明示的に示された学習です。また、学習者側も、自然な環境での意図せざる偶発的な学習(トライ&エラーの学習)ではなく、明確な学習目標や対象をもった”意図的学習”が必要です。
言語適性
外国語習得に関連して、言語適性(学習者の特性)という考え方を紹介します。
スポーツや音楽の学習において適性(運動神経や絶対音感)が指摘されるように、外国語習得についても適性を検討した研究があります。これには、冷戦下の米国において外国語を習得する人材(スパイや外交官)の採用・育成が重要課題となり、外国語習得の適性をチェックする必要があったという時代背景があります(注)。
言語適性テストを作成したCarrollは、言語適性の構成要素として、以下の4つを上げています(「英語指導法」赤松信彦 英宝社 P.43)
1.音韻符号化能力:音を認識し、音を文字(記号)と結び付け、維持する能力
2.文法的敏感性:文中における文法的機能を認識する能力
3.暗記学習能力:言語の音や意味を効率的に結び付け、維持する能力
4.帰納的言語学習能力:限られた言語情報から、言語パターンや規則を推測していく能力
(注)本理論への批判は多くあります。また、上記の2と4を統合して3つの構成要素とする考えもあります。
本稿で言語適性を紹介する目的は、適性で英語習得の成否が決まるということの説明ではなく、言語適性の構成要素を頭に入れておくことで、学習効率を上げることを狙いとしています。
音韻の識別能力、暗記力に並列して、規則性や文法的機能を認識する能力が重要ということです。受験英語(特にReadingやWriting)においては、この意識をしておくことで学習効率が上がります。
発音の識別能力との関連で、横道にそれますが、俳優や歌手の能力に驚くことがあります。女優の長澤まさみさんや麻生祐未さんの英語をTVで拝見して驚きました。歌手の中でも、ネイティブ並みの発音をする人がたくさんいます(ONE OK ROCK Taka、セカオワのFukase、ドリカムの吉田美和)英語圏での生活経験のない彼らは、音韻符号化能力が人並外れているのではないかと思っています。
まとめ
学問ノススメでは、以上のことを考えて、英語の学習指導を行っています。規則性(文法)を学習した後、具体的な事例に当てはめることで、さらに規則性を根付かせるアプローチ(演繹的学習)です。母国語や第2言語を英語圏で習得する場合には具体的な事例から共通する規則性を習得するアプローチ(帰納的学習)がほとんどですが、外国語を習得する方法には非効率です。
次回は、英語学習の実践編として、文法や語彙の学習法について紹介します。
(文責:大井 安治)
参考文献
英語指導法 理論と実践 21世紀型英語教育の探究 赤松信彦(編著)英宝社 2018年1月
言語はどのように学ばれるか 外国語学習・教育に生かす第二言語習得論 パッツイ・M.ライトバウン、ニーナ・スパダ(著)白井恭弘・岡田恵子(訳)岩波書店 2014年9月
ネイティブスピーカーの英文法絶対基礎力 Native speaker series 大西 泰斗 ポール・マクベイ(著)研究社 2005年11月
英語独習法 今井むつみ(著)岩波新書 2020年12月
日本人のための日本語文法入門 原沢伊都夫(著)講談社現代新書 2012年9月