心理学と勉強法 第25回 ヒューリスティック(経験則的思考法)
- 2021.08.15 | 心理学と勉強法 高校生・受験生の学び(現在)
心理学と勉強法 第25回
第25回は、ヒューリスティックについて説明します。
ヒューリスティック
人間は、単純なコンピューターとは異なり、ヒューリスティックな手法を使用しながら、正解に近づいていくという考え方があります。ヒューリスティック的思考とは、正解が得られるとは限らないが、近似解が期待できる経験則を活用した思考法のことです。
ヒューリスティックの対語は、アルゴリズムです。アルゴリズムは、コンピューターの推論の方法として聞いたことがある言葉ではないでしょうか。問題を与えられたときに、確実に解答に至る推論の手順のことです。コンピューターの計算は、人間がアルゴリズムを設定することで、P(roblem)→A(nswer)という推論を繰り返して、複雑な問題を解決するシステムです。人間の認知過程にもアルゴリズムがあります。足し算引き算は簡単なアルゴリズムですね。
アルゴリズムの例
一方で、解決方法がすぐにはわからない未知の問題、複雑な問題の場合に、人間が行う推論に使用される手法が、ヒューリスティックな推論です。よくわからない問題に出会ったとき、経験則を試しながら、正答に近づいていく方法です。道に迷ったときに、「よーわからんけど、経験ではこっちの明るそうな方が目的地につながりそうやから、まず、右に曲がろか、この道行ってみるか?あっ、通じた。次は、左かな?あかん、行き止まりや、ほな、この道や、、、、、」という方法を続けていく方法です。
現在の人工知能研究にもヒューリスティックな推論は大きな影響を与えています。ゴール(解)とスタート(問題)の違いをできるだけ小さくすることを目指して機械が推論を重ねていくモデルです。最初から目標への1本道を描くのではなく、複数の下位の目標を設定し、下位目標をゴールに向かって前向きに進んでいくことに加えて、時には、下位目標の前の状態を考える「後ろ向きの探索」を行うことで、最終ゴールに近づいていく(問題空間の探索)という考えです。
ハノイの塔と呼ばれる問題があります。
初期状態は大中小の円盤が棒に刺さっています。ゴールは3つの円盤を右の棒に移すこと。ただし、次の3つのルールがあります。①1回あたり1つの円盤を1つの棒から別の棒に移す②上に別の円盤が乗っていない円盤しか動かせない③大きい円盤を小さい円盤の上におくことはできない。簡単なようでむつかしい問題です。この問題の解答は以下の図の通りです。
最初の状態から、最後のゴールに行きつくまでに、7つの段階を踏んで、ゴールに到達できます。この7つの段階は中間の状態で、ゴールの下位目標です。いきなりゴールに行くのではなく、中間状態を試行錯誤しながら進んでいきゴールにようやくたどり着けます。
暗闇で暗中模索できること、経験則を生かして、少しずつ手がかりを探し、一歩ずつゴールに近づいていけることも、人間の認知活動の大きな特徴です。