心理学と勉強法 第34回 効率的な試行錯誤(ヒューリステイック)
- 2021.10.17 | 心理学と勉強法 高校生・受験生の学び(現在)
心理学と勉強法 第34回
第34回のテーマは、神経回路を太くするための3つ目のコツ 効率的な試行錯誤(ヒューリステイック) です。
熟達者と初心者の推論
神経回路を太くするには、脳を痛めないといけませんが、その際に効率的な試行錯誤(ヒューリスティック)を心がけることが大切です。以下は、物理初心者の大学生と物理熟達者の大学教授の間で、問題の解き方がいかに異なるかという例です。
問題:長さ0.5メートルの銃身から秒速400メートルで弾丸が飛び出した。弾丸は銃身内で一様に加速されたとすると銃身内での平均速度はどれだけか。また、弾丸が銃身内にあったのは何秒か。
今井むつみ『学びとは何か-(探究人)になるために』(岩波新書,2016年)より引用)
この例で明らかなことは、熟達者は答えを得るために一直線に進んでいて、迷ったり余計なことを考えたりしておらず、速度の公式を使うことが問題を見た瞬間にわかっていることです。また、それだけではなく、教科書に載っているような形で公式を思い出してから変形するのではなく、初めから直接数値が代入できるよう変形された形で公式を持ってくることができていることです。
それに対して初心者は、問題を解くための公式を思い出したものの、この問題に対して公式をどのように使うのかが、すぐにはわからない。いま自分が求めなければならないのは、この公式の中でもそもそもどの項なのか、与えられているそれぞれの数式は公式のどこに当たるのかを探すところから始めなければならないということです。
例にみられるように、熟達者は効率的な試行錯誤(ヒューリスティック)による推論ができています。藤井二冠も、AIに勝るスピードと正確さで決め手を見つけ出しました。
Try & Error ~AI 機械学習~
この例に見習うべきことは、しっかりとした研鑽を積むことです。プロは、長年にわたる研鑽を積むことで、強固な神経回路のネットワークを構築しています。未知の問題に出くわしたときでも、脳をフル稼働させて、トライアンドエラーを繰り返し、持てる知識をヒューリスティックな推論で最大限活用して、解答に効率的に到達しています。このような知識は手続き的な知識(自転車に乗る。泳ぐ。数学の問題)に特に適合していると思います。
受験の場合、しっかりとした研鑽とは粘り強く受験勉強に取り組むことですが、効果的に行うためには、むやみに時間を費やすのではなく、効率的な試行錯誤を心がけることです。トライアンドエラーの際に、自分の迷った道を見直してみることで、次に迷っても、効率的な試行錯誤に結びついていきます。熟達者への道です。
最初はわかるまで時間がかかってもいいです。粘り強く取り組んでください。次に同じ問題に取り組むときに、最初より、どれだけ迷い道が少なくなるか、スムーズに解答に至るかを意識してください。陸上や水泳で、タイムを意識しながら、フォームを直したり、ペース配分を変えたりすることと同じです。この取組が、あなたの神経回路を太くしていきます。
AIが行っている機械学習の一種であるデイープラーニングは、入力層→中間層→出力層の情報の流れを、出力される解答と正解の誤差を機械に学習させる(出力層→中間層の修正、中間層→出力層の修正と逆回転させる)ことで、誤りを修正していく学習です。機械学習は、人間の脳をモデルに適用することで飛躍的な進化を見せています。このモデルをイメージすることで、人間の脳が、脳内で、懸命な学習を繰り返し、正解に近づき、知識としていることが、イメージできませんか。
次回は、第2章のまとめ、プライベートコーチの役割 です。