「なぜ脳はアートがわかるのか-現代美術史から学ぶ脳科学入門」エリック・R・カンデル、2019年青土社

絵画で脳科学を学ぶ

今回ご紹介する本は、エリック・R・カンデル著「なぜ脳はアートがわかるのか-現代美術史から学ぶ脳科学入門」です。

カンデル氏は、この著書で「世界の物理的な本質に関心を抱く科学の文化」と「人間の経験の本質に関心を抱く、文学や芸術をはじめとする人文文化」の二つの文化のギャップを埋めることを試みています。

具体的には絵画を鑑賞するとき、私たちの脳がどのように絵画という情報を処理しているかということについて解説されています。

著者

エリック・R・カンデル(Eric R. Kandel)

 

1929年ウィーン生まれ。米コロンビア大学教授。現代を代表する脳神経学者。

記憶の神経メカニズムに関する研究により、2000年ノーベル医学生理学賞を受賞。

邦訳された著書に『記憶のしくみ』(講談社ブルーバックス)、『カンデル神経科学』(メディルカル・サイエンス・インターナショナル)、『芸術・無意識・脳』(九夏社)などがある。

 

構成

Ⅰ ニューヨーク派で二つの文化が出会う

第1章 ニューヨーク派の誕生

II 脳科学への還元主義的アプローチの適用

第2章 アートの知覚に対する科学的アプローチ

第3章 鑑賞者のシェアの生物学(アートにおける視覚とボトムアップ処理)

第4章 学習と記憶の生物学(アートにおけるトップダウン処理)

III アートへの還元主義的アプローチの適用

第5章 抽象芸術の誕生と還元主義

第6章 モンドリアンと具象イメージの大胆な還元

第7章 ニューヨーク派の画家たち

第8章 脳はいかにして抽象イメージを処理し知覚するのか

第9章 具象から色の抽象へ

第10章 色と脳

第11章 光に焦点を絞る

第12章 具象芸術への還元主義の影響

IV 始まりつつある抽象芸術と科学の対話

第13章 なぜアートの還元は成功したのか?

第14章 二つの文化に戻る

 

本書を読んで

これまで、絵画の解説書といえば作家の生い立ちや歴史的背景、当時の社会情勢といったことが紹介され、ある作品が生まれた背景や作品で示された技巧について解説されたものしか目にしたことがありませんでした。

 

その意味で本書のように、絵画鑑賞という行為が脳科学から見てどのようなものなのかというアプローチは非常に斬新でした。

 

また、芸術、絵画作品といえば、教科書で紹介されているような物しか馴染みがなく、ヨーロッパを中心した作品しかあまり知りませんしたが、本書を通じて20世紀の作品がどのような潮流なのか知ることもできました。

 

本書を読んだ後、絵画作品に触れたときにどのように心が動くのか観察することも楽しみになりそうです。

 

 

(文責:井口)