大学受験 英語学習法 その3(ネイテイブスピーカーの英文法、スキーマ)

英語(外国語)学習法実践編として、紹介本(ネイテイブスピーカーの英文法)に触れながら説明します。

(1).英語は配置の言葉

 

英語は単語の配置、語順が命です。日本語と比較します。

 

例文:
・私は池江璃花子さんという日本の若手水泳選手を尊敬しています。
・池江璃花子さんという日本の若手水泳選手を私は尊敬しています。
語順を代えても、同じ意味として通じます。

・I respect Rikako Ikee, Japanese young swimmer.
・Rikako Ikee, Japanese young swimmer, respects me.

 

まったく逆の意味ですね。英語は語順、日本語は助詞(てにをは)が、文意を決めます。外国人が日本語を学習する際の最初のハードルは助詞の使い方です。

 

”私、池江さん、日本の水泳選手、尊敬しています。”

意味は通じますが、カタコトの日本語です。外国の方は、最初は助詞を使いこなせず並べているだけの場合があります。英語圏の方からすれば、ムリもないことでしょう。

 

日本人が英語を使うときは、語順の大切さを、忘れてはいけません。英語の構文には5文型(SVOやSVOCなど)があることを学習したと思います。むつかしく考える必要はありません。英語は配置=単語を並べることで文を構成して、意味をなしていることを、文法的にまとめて説明しているだけです。論文やレトリック(修辞)を駆使した英文など英文読解に苦手意識がある方も、語順と文型(修飾関係)を意識すれば、必ずクリアになります。

 

 

紹介本「ネイテイブスピーカーの英文法絶対基礎力」では、ネイテイブスピーカーは、ピボット(軸足旋回)の意識で、単語を並べていると説明しています。

 

・I painted the wall red.という文章を以下の思考過程で説明しています。

 

painted the wall「私は壁を塗った」⇒(ここで意識をthe wallに向けて、the wallを中心にクルッと”軸足旋回”)the wallとredを並べる=壁は赤い⇒壁を塗って赤くした。

 

同じように、I found Rikako peeping through the keyhole.(私はリカコが鍵穴からのぞいているのを見つけた)も、「私がリカコを見つけて、そのリカコが鍵穴からのぞいている」という構成になっているだけ、日本語のように助詞が決め手ではなく、単語を並べるという構成が決め手という説明です。また、同書では、並べる言葉「英語」の説明を、「be動詞に意味はない」という点でも説明しています。Oh, you are a fool. は、Oh, you fool !と同じです。Be 動詞に意味はありません。並べる言語ということです。

 

(2)修飾(前は限定、並べると説明)

 

ネイテイブスピーカーの英文法では、英語の修飾について、「前は限定、並べると説明」と説明しています。

例文1:前は限定、並べると説明
A: I didn’t realize there was so much behind-the-scenes lobbying.(表立って出てこないロビー活動(注)がそんなにあったとは気づかなかった)
B: He remained behind the scenes.(彼は表立っては出てこなかった)

(注)ロビー活動とは、特定の利益団体が政府の政策に影響を及ぼすことを目的として活動すること、behind the scenes(舞台裏)

例文A(前に配置)では、behind the scenesは、ロビー活動を限定する表現ですが、B(後ろに配置)では、彼の様子を説明しています。

 

例文2:否定(Not)について
A: The rich are not always happy. (金持ちがいつも幸せとは限らない)
B: The rich are always not happy. (金持ちはいつも不幸せ(=幸せじゃない))

この例文は、文法では「全部否定・部分否定」と説明されていますが、notを修飾の一種と考えれば、前に配置されているnotが、それに続く単語を修飾(限定)していると考えれば済むだけの話です。

 

例文3:並べると説明について
A:  The man is turning the corner.(男は角を曲がるところだ)
B:  The man turning the corner is my father.(角を曲がる男は私の父です)
C:  The man looked around turning the corner.(男は角を曲がりながらあたりを見渡した)
D:  Turning the corner, the man bumped into a signboard. (まさに、角を曲がっているとき、男は看板にぶつかった)

 

 

文法では、それぞれの例文を、A(進行形)B(現在分詞の形容詞的用法)C(現在分詞の副詞的用法)D(分詞構文)という説明になりますが、文法の区分は不要です。Turing the corner(角を曲がる)という単語を修飾したい語句の後ろに並べて説明しているという理解で、すべて納得できるはずです。Dについては、少し説明します。Turning the cornerは、the man bumped以下を説明しているので、本来の位置はその後ろです。The man bumped into a signboard, turning the corner.で表現できます。が、前(文頭)に置くことで、文章にインパクトが加わります。「角を曲がったまさにその時に、、、」という風に。話し言葉では話し方を工夫することでインパクトを与えられますが、書き言葉ではできません。だから、インパクトを与えるために、配置を変えただけです。並べると説明の原則で理解できます。また、「英語は配置」の重要性が理解できる例文でもあります。

 

(3)文法のややこしさ

文法のむつかしさを説明するために、日本語文法の受動態について説明します。

例文:
私は、満員電車で誰かに財布を盗まれた。

 

日本語では、普通に表現される内容ですが、これを英語で表現するときに、
I was stolen my wallet by someone in the crowded train とは表現できません。I got my wallet stolen in the crowded train.が自然な英語表現でしょう。この受動態(受身表現)は、日本語に特有の表現です。文法用語で間接受身文と呼びます。対語としては直接受身文ですが、「私の財布は満員電車で誰かに盗まれた」のような内容です。能動文の目的語が主語となる文章です。イメージとしては、受身文の影響を受ける人(もの)へ直接的な影響を及ぼす内容です(上記の例文では財布)。これの対語としての間接受身文とは、受身文の影響を受ける人(もの)への影響が間接的なものです(上記の例文では私)

 

 

間接受身の表現は、日本語に特徴的なものです。これを文法として説明しようとすると、直接受身文・間接受身文という説明以外に、以下のような文法用語を使った説明になります。

・まともな受身・迷惑な受身
・使役文
・思いやりの表現
・ウチとソトの発想
・やりもらい動詞
・可能形・自発形
(日本人のための日本語文法入門 原沢伊都夫 講談社現代新書 2012年9月より)

 

このような文法用語の意味とロジックを説明できる人は文法学者以外にいないと思います(文法学者によって説明方法が違う点もあります)

 

 

でも、われわれは受身文を使いこなしています。上記の例文では、日本語の自然な表現は、「私の財布が誰かに盗まれた(直接受身文)」ではなく、「私は誰かに財布を盗まれた(間接受身文)」ですが、英語を母国語とする外国人が日本語を学習するときは、(英語には間接受身文の表現はないので)大きなハードルになります。外国語を習得する際には、以上のように厳密な文法上のルールをすべて理解しようとすると、迷路に迷い込んでしまいます。文法は、言葉の使用例(経験)をもとに、人間が後付けで作ったルールです。各言語の歴史が影響しているので、厳密なルールの説明がすっきりせずに、くどい説明になるのは当たり前のことです。「自然の理」である物理や科学とは異なります。

 

外国語で、文法を厳密に学ぶことのムダはここにあります。

(4)まとめ

 

文法を厳密に学びきることのムダを説明するためにネイテイブスピーカーの英文法での説明を援用したうえで、日本語の文法を説明しました。ともに、言語における「スキーマの重要性」を示しているからです。母国語話者は、生活を通じた学習で、シンプルなロジック、美しいロジックでは説明できないような細かいルール(文法)を学習しています。その知識をスキーマにしています。「英語は配置」「前は限定、並べると説明」という知識の枠組みを作ります。日本語の例では「てにをは(助詞)」「間接受身文が自然」というスキーマです。ただし、外国語の学習者は母国語のような密な経験をすることができません。そこで、ルールを学ぶ必要性が出てきます。ルールをスキーマとして学ぶ合理性が出てきます。

 

 

このような言語のスキーマを習得する力が、前回説明した言語適性の中の「文法的敏感性」「帰納的言語的学習能力」です。敏感な人もいれば、そうでない人もいます。でも、それは、全く問題ではありません。泳ぐことが、すぐにできるかどうか、程度の違いです。学習することで必ず身に付けることができます。母国語は誰もが身に付けているのですから。結局、スキーマを身に付けるための学習をすればいいだけのことです。

学問ノススメの英語指導は、この点に絞った個別指導を行います。認知心理学を踏まえた個別指導です。

 

 

(文責;学問ノススメ 大井安治 臨床発達心理士)