言語学者 桑田佳祐のことばを大解剖【学問ノススメの英語学習論】

押すなよ BY ダチョウ俱楽部

「桑田佳祐の”ことば”を大解剖!」言語学者の川添愛さんと音楽評論家のスージー鈴木さんの対談が、新潮社の「考える人」に掲載されています。川添さんは、長崎県出身、九州大学文学部卒業の言語学者です。近著「言語学バーリ・トウード」では、ダチョウ俱楽部の絶対押すなよがAIに理解できるかについて、次のように解説しています。「面白さを感じるには、知識や文化を共有していないといけません。それは「意図」を特定させるための手がかりが言葉そのものの「意味」の中に入っていないという点で、AIには最上級に難しいのではないかと思っています。AIがギャグをわかるようになるには、社会の一員として人間たちと一緒に長期間生活し、人間と共に成長していけるような能力を持つことも必要かもしれません。」

 

 

今回の対談は、桑田佳祐さんの歌詞を、音楽評論家と言語学者の対談で分析するという試みです。その冒頭で、「恋人がサンタクロース」問題の紹介があります

 

恋人がサンタクロース問題

ユーミンのヒット曲「恋人がサンタクロース」。なぜ、恋人「は」サンタクロースではなくて、恋人「が」サンタクロースなのかという分析。日本語の「は」と「が」の使い分けは、学問的にはとても面白いテーマのようで、いろいろな文献で説明されています。昔話 桃太郎でも「昔々、あるところにおじいさんとおばあさん『が』いました」であって、「昔々、あるところにおじいさんとおばあさん『は』いました」ではないです。今回の「恋人『が』サンタクロース」についての詳しい説明は本文にお任せしますが、端折っていうと、”恋人”も”おじいさんおばあさん”も、この2つの文章では新情報として提示しているので、『は』ではなく、『が』を使っている という解説です。英語になぞらえて、「『が』は不定冠詞 a』「『は』は定冠詞the」に当たるという説明をしている文献もありました。ただし、『が』と『は』の性質にはいろいろとあり、この解説は一つの用法の説明に過ぎません。

 

川添愛×スージー鈴木「桑田佳祐の”ことば”を大解剖!」 考える人 新潮社より

 

砂まじりの茅ヶ崎

さて、今回の対談のハイライト、サザンオールスターズのデビュー曲「勝手にシンドバッド」の一節「砂まじりの茅ヶ崎」です。日本語の「の」には、英語の『of』や『~’s』と比較すると、かなりの自由度が認められるという解説です。例えば、「雨の公園」は、「park of rain」や「rain’s park」ではなく、「park in the rain」や「rainy park」が正しい表現。英語では雨と公園の関係を明示していますが、日本語はこれを『の』を使って表現しています。このように日本語の『の』は、かなり広い範囲での表現に使えます。

 

 

実は、桑田さんは、このような日本語の特徴を生かした表現が随所にみられ、記憶に残る歌詞となっているという分析です。「砂まじりの茅ヶ崎」も、茅ヶ崎(海岸)が砂まじりという表現はおかしいかもしれませんが、茅ヶ崎海岸の景色や、そこで砂まじりになっている若者たちの光景を聴き手に想像させる描写とも言えます。サビで繰り返される「胸騒ぎの腰つき~♬~」なんかは、英語で端的に表現することはまず不可能ですが、日本語では語り手の心情や状態が何かしらイメージできそうですね。日本語の持つ『の』の力を絶妙に使った歌詞が、桑田さんの真骨頂ということです。

 

川添愛×スージー鈴木「桑田佳祐の”ことば”を大解剖!」 考える人 新潮社より

 

言語は接ぎ木細工

今回説明したいことは、言葉は、ことほど左様に繊細で、文法というもので、スッキリと説明ができないということです。でも、われわれは、苦労なく日本語を操れます。人間の言語能力は凄いんです。AIが理解できない”押すなよ”(BY ダチョウ俱楽部)も、簡単に理解できます。面白いと感じるかどうかは、個々人で異なりますが、、、、、、日本語を学ぶ外国の方々は大変ですね。でも、外国の方々もある程度までは、日本語を習得できます。「恋人がサンタクロース」という歌詞ではなく、「恋人はサンタクロース」という歌詞を書いてしまうかもしれませんが、意味は通じます。「好き、カレー、私」とめちゃくちゃな文法で話してしまっても、日本人の私たちには理解できます。これと同じことが英語にも当てはまることをお伝えすることが今回の目的です。言語は人間が創ったものですから、きれいな1本線で描ききれません。美しい物理の数式ではありません

 

 

接ぎ木の枝葉?幹でしょ!

だから、文法などどうでもいいと言っているのではないです。逆です。だから、外国語は文法から(もちろん単語も)学ばないと、追いつけないんです。母国語は、幼いころから時間をかけて学べます。いつの間にか、学問的にも難解な「が」と「は」を自然に使いこなせています。でも、外国語は、生活では学べません。意識して、必要なルールを学ばないと、とてもじゃないけど、身につきません。ここで、ポイントは『必要』なです。人間が創ったルールです。このルールは、1本杉ではありません。巧妙な接ぎ木細工です。むしろ、ジャングルです。完璧な合理性を持つことなどありえません

 

 

ならば、すべてをマスターしようとしないことです。必要なルールだけをまずは身につけることです。そして、『必要な』のレベルは、人によって異なります。大学受験レベル、ビジネスレベル、学者レベル、そして、母国語話者(読者)を感動させられるレベル(桑田レベル)。それぞれのレベルで身につけるべきルールが異なります。「好き、カレー、私」でも通じますが、大学受験はできません。でも、「恋人がサンタクロース」や「胸騒ぎの腰つき」という表現ができる必要はありません。おそらく、ほとんどの外国語話者は、そのレベルに行きつくなどできません。この『必要な』を考えて、学問ノススメでは英語の指導をしています。

 

(文責:大井)

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