不条理に復讐する~中村哲 医師~

荒野に希望の灯をともす

先日、福岡市主催のハートフルフェスタ福岡というイベントに参加しました。一人ひとりが人権を自分自身の問題として身近に感じ、考えるきっかけをつくる人権啓発イベントで、今年で25回目とのことです。赤坂駅のポスターで見かけ、中村哲先生のドキュメンタリーフィルムと安田菜津紀さんの講演とのことで、興味をもちました。

 

 

中村哲先生については、みなさんご存じと思います。私自身は、福岡に着任してすぐのころ、凶弾に倒れられ、先生のご活躍を詳しく知ることとなりました。福岡県出身の偉人。西南学院中学、福岡高校、九州大学OBとして、直接お話をうかがわれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?中村先生は、アフガニスタンやパキスタンで30年以上にわたり医療活動に従事されました。そして、戦禍に襲われ大干ばつに見舞われたアフガニスタンで、大規模な灌漑事業を自ら先頭に立って20年近くにわたりリードし、数十万人以上が暮らしを取り戻せる基盤を創り上げました。「荒野に希望の灯をともす」は、中村医師の30年以上に渡る闘いをドキュメンタリーフィルムにまとめたものです。西日本新聞の中村哲医師特別サイトのガンベリ砂漠の変貌は、感動的です。

 

荒野に希望の灯をともす

 

あまりの不平等という不条理に対する復讐

この映画の中で、中村医師の言葉として、紹介されていた言葉です。中村医師は、30代で登山医療協力隊の一員としてパキスタンの山岳地域に派遣されました。派遣された山岳地域には、一目でハンセン病とわかる患者たち、医療提供を行わないままでは明らかに命にかかわる人たちが後を絶たない状況だったそうです。にもかかわらず、医療物資やスケジュールの制約で、助けを求めて追いすがる母親や泣き叫ぶ赤ちゃんをそのままにして、現場を立ち去らなければいけなかったそうです。

 

 

この体験が、その後の活動のきっかけだったと語っています。その時の感情とその後の活動を称した言葉が、この言葉です。中村医師が現地に骨をうずめる覚悟で命をかけた医療事業、そして、まったくの専門外の灌漑事業に一から取り組んだ原動力が、この言葉に凝縮されていると考えると、ずっしりと重く、心を揺さぶられました。

 

 

西日本新聞より

 

愛の反対は憎しみではなく、無関心です

フォトジャーナリストの安田菜津紀さんの講演では、シリアやウクライナなど、戦禍にある海外の状況が写真で紹介されました。安田さんも幅広く活躍されており、ご存じの方も多いと思います。この方の現在の活動のきっかけは、高校生時代に、「国境なき子どもたち」というNPO団体の”友情のレポーター”として、カンボジアに派遣された体験だそうです。目の前に現れた物乞いの女の子たちが、実は人身売買された子どもたちであり、ブローカーに物乞いの仕事をさせられているんだと知った時の衝撃が原体験だそうです。

 

 

安田さんはその時の経験をこのように語っています。「今時インターネットを通して、なんでも調べられる、なぜわざわざ日本から取材に行くの?と思う方もいるかもしれません。現在私は、新たな”友情のレポーター”たちの取材に同行させて頂いています。彼ら彼女たちは、かつての私がそうだったように、相手にこんな質問をしていいのだろうか、相手を傷つけないだろうかと、迷いながら取材を続けます。その悩みや葛藤は、実際に現地で出会わなければ生まれなかったものでしょう。そうして出会った誰かと、「あなた」と「私」という関係性を結んだ場所は、もう決して“遠い国”ではないのです。こうして五感を通して感じたものから発する言葉は、立体的で、心に響くものになるはずです」

 

 

「愛の反対は憎しみではなく無関心です」は、マザー・テレサの有名な言葉です。

 

平和とは理念ではなく現実の力

以下は、中村先生の言葉です。

『信頼』は一朝にして築かれるものではない。利害を超え、忍耐を重ね、裏切られても裏切り返さない誠実さこそが、人々の心に触れる。それは、武力以上に強固な安全を提供してくれ、人々を動かすことができる。私たちにとって、平和とは理念ではなく現実の力なのだ。

 

西日本新聞 中村哲医師特別サイトより

 

理念ではなく、一身をもって実行した人。医療の専門家として、その真髄をわかったうえで、「100の診療所より1本の用水路を」と信じ、挑んた人。だからこその言葉だと思います。

 

(文責:大井)