心理学と勉強法 第20回 スキーマ(知識の枠組み)

心理学と勉強法 第20回

第20回は、スキーマ(知識の枠組み)について説明します。

1.スキーマとは

人間は、推論の際に、知識の枠組み、心的な枠組みを使っていると考えられています。この枠組みのことをスキーマといいます。20世紀を代表するスイスの発達心理学者ピアジェは、新しいものを取り入れるときに使う知識の枠組みをシェマ(フランス語)と名付けました。

ジャン・ピアジェ

イメージが難しい言葉ですので、具体例を。以下の図は、犬という知識の枠組みの一例です(動物→犬→シベリアンハスキー/柴犬という構造)。犬や柴犬、あるいは、ライオンという知識が構造化されています。

スキーマの一例(考えることの科学 市川伸一著 中公新書 2016年 P.136)

第1章(記憶)でも説明した、「脳の情報処理容量が限られている中で、情報量を圧縮・転換する脳のメカニズム」が、ここでも機能しています。また、スキーマは、記憶のメカニズムでも使われています。

覚えるとき(符号化)には、対象に対して何らかの解釈をして、記憶しています。記憶に残るものは対象そのものではなく、解釈をした結果です。つまり、スキーマ(知識の枠組み)となっています。思い出すとき(検索)にも、記憶をたどりながら思い出し、スキーマに適合するようなものとして再生しています。その再生されたものを、今度は入力し直し(解釈して)再構成するというサイクルをたどっています。

見たり聞いたりしたことが、スキーマで補完し解釈されながら、知識となります。時には、真実や事実ではなく、解釈の結果ゆがめられたものが記憶される場合もあります。伝言ゲームのイメージでしょうか。人間の記憶のあやふやさや、信念の危うさは、認知心理学が解明してきたテーマの一つです。

2.カギは情報処理の方法

学習におけるスキーマの働きの重要性を示唆する研究として、チェス競技者の記憶に関する実験があります。

チェス経験者(名人、上級、初級)に対して、盤上に配置されたコマを5秒見せた後、コマ配置の再現を試験したところ、初級者は4個、上級者は8個、名人は16個を再現しました。しかし、出題の条件を少し変えたところ、大きく結果は異なりました。最初の実験では、実際のゲームでの局面を見せましたが、次の実験ではまったくランダムなコマ配置を見せました。その結果では、初級者も上級者も名人もいずれも再生できた数は4個以下でした。

この実験から、熟達者のすぐれたパフォーマンスを支えるカギは、記憶容量の純粋な増大ではないことが推測されます。処理容量の限界が増えないとしたら、カギは情報の圧縮・変換を行うなどの情報処理の「方法」への工夫にあり、その重要な働きがスキーマにあります。チェスの例の場合、過去の対戦記録に関する棋譜へのチェススキーマが名人や上級者には備わっているということです。

【次回(第21回)テーマ ”中程度の抽象度”を持った知識(スキーマとの関連) 】