M1を科学する (東京大学 X 吉本興業 笑う東大、学ぶ吉本プロジェクト)

笑う東大、学ぶ東大プロジェクト

東大と吉本興業のコラボレーションプロジェクト ”笑いのコミュニケーション科学”の一環として、M1を東大教授達が科学的に分析した発表会が2022年7月に行われました

 

 

お笑い好きで、毎年M1を準々決勝から観戦している筆者としては、見逃すわけにはいかず、当日オンラインで受講しました。当日の成果報告は、以下の通りです。

笑いにおけるつかみの効果(植田一博 教授(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)

漫才の冒頭にある「つかみ」が、本ネタの客ウケにどういう影響を及ぼすかを面白さのデータ解析で分析。面白さは「笑顔度」と「自律神経系(心電位)」の2つで計測し、漫才の動画を見る前の安静時からどのくらい変化したかを測るのですが、その結果、植田教授は「つかみあり」の方が「つかみなし」よりも本ネタを面白いと感じていたことがわかったとのこと。ただ、「面白いつかみ」と「面白くないつかみ」の間に差がなかったことについて、「『面白くないつかみ』はトータルテンボスの藤田さんに考えてもらったんですけど、やっぱりプロの方なので意外に面白かったんですよ。だからちょっとマズイなぁと思った」と植田教授自身が苦笑していました。

 

 

計算科学による分析で今年のM-1王者を予想(浅谷公威 特任講師(東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻)

「計算社会科学による分析で今年のM-1王者を予想する」という研究の結果発表。ツイッターのデータによる「芸人+有名人ネットワーク」や「お笑い芸人貢献度ランキング vs M-1結果」、さらにルミネtheよしもと等の劇場の入場者数やチケットの販売数、ルミネtheよしもとの公式アカウントのLike数などから分析して今年のM-1優勝者を予想するというもの。分析の結果、浅谷講師は「去年の6月のルミネとM-1の予測精度がいちばん相関性が高かった」ことがわかったと明かし、「つまり、『2022年6月の劇場の入場者数によるM-1グランプリ予測』での1位のコンビが優勝します」と自信たっぷりに発表。1位は「オズワルド」という結果にで、会場にいたオズワルドは大盛り上がり。

 

なぜおやじギャグはウケないのか?

大澤教授が開発したソフトウェア「KeyGraph(キーグラフ)」を使用して漫才を可視化し、どのような言葉が重要なのか、その言葉にどのような役割があり、観客が笑っているのかなどを分析するという研究。例としてマヂカルラブリーが2020年の『M-1』で優勝した「つり革」ネタをグラフ化したものを見ながら、大澤教授が「キーグラフによる漫才ネタの可視化」について説明する。そこから発展して、東京大学工学部の森原ソフィア遥さんによる「ゆにばーすテキストをKeyGraphで分析する〜なぜおやじギャグはウケないのか?〜」の研究成果発表へ。言葉にならないような要素であるダミーノード(テキストにない、チリのようなモヤモヤしているもの)も付加してテキストを分析するという森原さんの研究は、ゆにばーすの“賛成派と反対派に分かれてディベートする”という漫才のネタを題材にして、非常識と常識をまたぐ笑いを「逆説構造の笑い」と定義づけ、分析。その結果、ボケと突っ込みの笑いが重なったダミーノードのところで笑いが起きている(ダミーノードによって文脈が可視化されている)ことから、「笑わせるには文脈を生み出すことが重要である」ということがわかったと話す森原さん。

 

 

お笑い好きの私は、この発表を、漫才がもつ「つっこみの効用」と理解しました。つっこみが、笑いの文脈を上手にテンポよく伝えているという構図です。ダウンタウンの松っちゃんが、「最高のボケは、つっこみがなくても成立するんですよ」と言っていたことを、テキスト分析の手法で説明したということです。

複雑系ネットワークや知能情報学を駆使した東大教授の科学的分析は、興味深かったです。が、分析など超越してお笑いを日々起こしている漫才師たち。お笑いのプロは、凄い!の一言です。

 

 

文責 ミライノ 大井