「法のデザイン」〜 創造性とイノベーションは法によって加速する 水野祐 (フィルムアート社)
- 2021.04.23 | 書評 未来への学び(遠い未来)
1.変化が早い時代の法との向き合い方とは
法といえば、どちらかといえば誰かがすでに決めたことであって、守るものと考えることが自然な感覚の人は多いと思います。
また、法を意識する場面といえば、信号の赤や青を守ることなどの限定的な場面で、日常的には意識することは多くないような気がします。
しかし、公共施設での無料Wifiを利用するとき、スマホでYouTube, Line, Twiiterなどのアプリを利用するとき、コンビニでものを買うときなど、いちいち契約を交わしている、と言われたらどうでしょう?
法というものが非常に身近に感じられるのではないでしょうか?
今回紹介する著者の水野拓さんは「情報化社会と言われる私たちの社会では、私人間の合意である契約が大量化・複雑化して」おり、「歴史上、人類がこれだけ大量の契約を日常的に交わした時代はおそらくない」と述べています。
そして、「元来、法は法律家だけのものではない。インターネットをはじめとする情報技術の進展に伴い、21世紀は、法律家のみならず、市井の人々が法を主体的に使いこなす時代になる」とも述べています。社会の変化の速度が非常に早いため、現実と法との間にはギャップがあり、その為に法を「デザイン」するという考え方が役立つと述べています。
2.著者紹介
水野祐さん
弁護士(東京弁護士会)。Creative Commons Japan理事。Arts and Law理事。九州大学グローバルイノベーションセンター(GIC)客員教授。慶應義塾大学SFC非常勤講師、同SFC研究所上席所員。リーガルデザイン・ラボ。note株式会社などの社外役員。
3.本書の構成と読みどころ
本書は総論と各論の2部構成になっています。
第1部:リーガルデザイン総論:法によりイノベーションを加速させることは可能か
「リーガルデザイン」という概念とその背景が説明されています。その前提として、「アーキテクチャ」と「コモンズ」という2つの概念についても説明されています。「アーキテクチャ」とは、アメリカの法学者ローレンス・レッシグが述べた概念で、人間の行動や社会秩序を規制する要素のことです。「コモンズ」とは誰もが利活用できる共有地のことで、例えば公道やインターネットなどがあります。
第2部:リーガルデザイン各論:各分野の考察から
音楽、二次創作、出版、アート、写真、ゲーム、ファッション、アーカイヴ、ハードウェア、不動産、金融、家族
インターネットが普及して、様々な分野の境目が曖昧になっています。例えば音楽、テレビ、映画といったコンテンツはインターネットという場所を通じて楽しむことができるようになりました。こうした社会の変化に伴って、新たな法のあり方が求められています。
第2部ではこうした社会情勢の変化を受け、二次創作やゲームなどの身近な分野から政治・金融などの分野までを幅広く取り上げ、どのような法・ルールが「デザイン」されているのかについて、いろいろな例が紹介されています。
4.本書を読んで
「法」を「デザイン」するという表現に斬新さを感じ、本書を手に取りました。私たちの生活は法によって支えられているのですが、状況に応じて変えていくべきことは沢山あります。その時に、どう変えたら良いのか、ということについて、すべてのケースに当てはまる普遍的な考え方はありません。だから私だったらこういうようにしたいと考えることが面白いし、大事なことなのだと思います。身近なケースを通じて、社会のことを考えるきっかけとして本書を読んでみるとよいと思います。
(文責:井口)