伊藤幹治著「贈答の日本文化」筑摩書房, 2011
- 2021.12.24 | 書評 未来への学び(遠い未来)
贈り物についての疑問
年の瀬のこの時期、街を歩いているとクリスマスプレゼントの広告があちらこちらに溢れているのを目にします。
クリスマスに限らず、何かお祝い事や記念の日には当然のごとくプレゼントをします。プレゼントは渡すことも、もらうことも嬉しいもののように思います。
しかしその一方で、さも贈り物をすることが当然であり、どこか義務のような感じもします。また、もらった場合でもお返しをしたいという気持ちになることもあれば、どこか義務のような感じもします。
このアンビバレントな感覚をもたらす贈り物をやりとりする習慣とはどういったものなのか?とふと考えたくなりました。
そこで、今回は贈り物の文化についての1冊をご紹介したいと思います。
著者
伊藤 幹治
1930年東京都出身。1953年國學院大學大学院文学研究科修士課程修了。国立民族学博物館教授、成城大学教授、成城大学民俗学研究所所長を歴任。国立民族学博物館名誉教授、文学博士。柳田国男全集編集委員。第一回澁澤賞・第一八回南方熊楠賞受賞
構成
本書の構成は序章、終章を含め全6章にわたり、近代以降日本社会で行われていた、または行われている贈答の文化について、贈与論や交換論を手がかりに検討がされています。
序章 贈答の世界を解読するために
1:現代日本の贈答
2:共通文化と民俗文化
3:贈与/交換/互酬性
第1章 贈答の過去と現在
第1節 世相からみた贈答
1:贈答と生活改善運動
2:贈答の両義性
第2節 農村の贈答
1:年中行事のなかの贈与と返礼
2:通過儀礼のなかの贈与と返礼
第3節 都市の贈答
1:贈答の3つの型―連続・受容・創出
2:交換論からみた都市の贈答
第2章 贈答の仕組み
第1節 民族誌からみた互酬性
1:贈与と交換の民族誌
2:互酬性の再検討
第2節 互酬性の原理
1:返礼の期待と返礼の義務
2:恩と義理の概念
第3章 贈答の諸相
第1節 贈答の持続と変化
1:象徴的返礼としてのオウツリ
2:仕掛けられた交換―バレンタインデーとホワイトデー
3:交換財としての食物
第2節 贈答の文化装置
1:均衡原理と競合原理
2:記憶装置としての祝儀帳と不祝儀帳
3:贈与と返礼の調整装置
第4章 贈答と宗教的世界
第1節 アニミズム的汎神論の世界
1:小さな神がみとの交流
2:神への贈与
第2節 共存の論理と救済の論理
1:現世志向と来世志向
2:無償の贈与としての喜捨
終章 贈答と現代社会
1:現代日本の公的贈与
2:贈与の論理と贈答の論理
「あとがき」
本書を読んで
本書では、元来、日本には贈り物をもらった場合には返礼することが義務として考えられていると紹介されていました。これを「贈答の論理」というそうです。だから「贈答」という言葉があるのですね。ちなみに、この論理は、マルセル・モースというフランスの社会学・文化人類学者が記した「贈与論」という有名な著書の中でも触れられており、日本に限ったことではないようです。
文責 井口