学問ノススメ 講師列伝 その5 大学院って、どんな感じ?

学問ノススメでは、講師が生徒のプライベートコーチとして志望校合格まで伴走していきます。学問ノススメの生命線は、講師の質です。一部の講師については、インタビュー記事をホームページに掲載して、その人となりを紹介しています。講師列伝では、筆者の目から見た講師の個性や特徴を毎月紹介していきます。

第5回は、大学院って、どんな感じ? です。

Aさんは、九州大学 大学院 理学府化学専攻 分光分析化学研究室に在籍。”光物理過程の研究”、”光に対する物質の応答”を研究する分野とのこと。Aさんに、大学院での生活及び研究についてインタビューしました。

 

研究室の集合写真

 

大学院での研究

当研究室では主に光る物質について研究しています。私たちの周りには、電球やスマホのディスプレイ、蛍光板など光るものがたくさん存在しています。分子は通常エネルギーの低い状態(基底状態)で存在し、光などのエネルギーを吸収するとエネルギーの高い状態になります。その後、元の基底状態に戻るためにその分のエネルギーを光として放出する。これが発光の仕組みです。しかし発光は1兆分の1秒の超高速で起こる現象のため、ヒトの目で発光の仕組みをとらえることはできません。当研究室では1兆分の1秒程度の時間で生じる分子の超高速現象を実験的に観測しています。

 

実験室

 

私の研究テーマ

私はその中でも希土類材料の発光現象の解明をテーマとして研究を行っています。例えば、希土類(レアアース)と呼ばれる物質があります。”産業のビタミン”とも言われている物質で、産出量が少なく、且つ、少量でモノの強度や耐熱性を高めることができる物質です。その特性から自動車や家電を始め様々な分野で用いられ、ハイブリッドカーや光ファイバーなど次世代技術への活用が期待されています。

 

希土類~光るプラスチック~ 北海道大学ウエブマガジンより

 

希土類の特性の一つに、光の色純度が高いというものがあります。いろいろな色の光が混じり合っていないので、鮮やかな色を発光することができます。一方で、希土類には、光の吸収度は弱いという特性もあります。この弱点を補うために、光の吸収効率が高い物質(有機分子)に吸収させた光を、希土類にエネルギー移動させ、希土類から発光させることが考えられています。このようなメカニズムを研究しています。

 

高校や大学での学びとの違い

大学院では研究分野が絞られていますので、好きなことに特化できると言えるかもしれません。高校での学びとの関係でいえば、研究で数式を使いますので数学の勉強はもちろん役に立っています。でも、そのことよりも、大学院での研究は、答えが見えていないものの探求ですので、わからない問題に直面した時にどうすればいいかを考えるプロセスを、高校生の時に学んだことは良かったと感じています。

 

希土類の発光スペクトル

 

大学院では、大学との学びとも違う点があります。学習の自由度は高校→大学→大学院と高まります。今は、平日は朝から研究室にいて、実験や、文献調査、研究報告、自主ゼミ、修論テーマに関する勉強を続けています。研究テーマに使っている時間は70%程度ある感じで、自分の裁量で使う時間が多くなっています。高校時代は、大学院進学のイメージはなかったですが、経験をしてみて、科学的な理解に基づいた思考法が鍛えられ、自分の将来を考える時間や人との出会いが増えたと感じています。

 

インタビュー後記

日本の大学院進学率(大学生の大学院進学率)は11.3%(2020年、文部科学省)です。2010年をピーク(15.9%)に下降傾向にあります。分野別の差はあります(理工学部系40%、人文科学系3%程度)が、国際比較をすると、高くはありません(修士号取得数(100万人当たり、2018年文部科学省資料より)

 

日本 イギリス アメリカ ドイツ 韓国 中国
570 3,697 2,446 2,359 1,600 350

 

特に、人文社会科学系の大学院進学率が顕著に低い状況です。決まりきった答えがなく、あふれる情報の中、情報を精査してエビデンスに基づいた問題解決が必要と言われて久しい世の中です。文系理系という考え方が通用しなくなっています。学びを深める、あるいは社会人になった後で学びを続ける、学び直しを考える中で、大学院への進学は、とても魅力的な選択肢だと思っています。

 

(文責:大井)