記憶のコツ 精緻化と生成効果 ~心理学と勉強法 2023~

記憶のコツ 精緻化と生成効果

学問ノススメのブログ 心理学と勉強法の中で、多くの皆さんから興味を持って頂いたブログを隔週で紹介するシリーズです。今回は、記憶のコツ 精緻化(elaboration) と生成効果(generation effect)について説明します。

 

精緻化

精緻化とは、覚えるべき情報に関連する情報を付け加えながら覚えるという記憶戦略です。語呂合わせは単純な例です(√5=2.2360679(富士山麓オーム鳴く)や元素記号(水兵リーベ僕の船、、、))。覚える事を自分や自分に近しい人などと関連づけるという方法も当てはまります。歴史的な出来事の中でも、自分が訪ねた場所に関する情報はよく覚えている、ということがあります。

 

 

生成効果

記憶の生成効果(generation effect) という考えがあります。自分で考えて生み出した情報は他者から単純に与えられた情報よりも記憶がよくなるというものです。受け身の学習(例:授業を受ける)ではなく、自分で生み出すことで自分の中にある知識と関連した情報と結び付けることになるので、記憶戦略上有効との考え方です。身近な受験勉強の例でも、成績がいい人の中には、覚えるべき知識の覚え方を自分で工夫している姿を見かけます。生成効果(=頭の中にある知識との結び付けを自分で生み出そうという努力)が記憶ネットワークを強くしていると理解しています。

 

 

生成AI

生成という言葉との関係で言うと、生成AIが大きな話題になっています。AIが創り上げた画像や音声に驚かされます。一方で、AI生成の画像や音声の著作権問題や、学問の領域でも、論文や宿題を機械にまかせてしまうことへの警鐘など、問題点もあげられています。現在のAIの限界として、生成した文章や画像が間違っているケースは、まだまだあります。テキスト情報(文章)に関していえば、機械は情報の意味を理解して生成しているのではなく記号として理解して生成しているので、不正確なアウトプットが生じるのは当たり前です。人間に置き換えると、自分で考えて生み出そうとせずに、受身で情報を処理していると、理解が及ばず記憶にも残らない場合があることと似ています。精緻化や生成効果が記憶に役立つことと通じます。

 

 

個人の成長という視点では、自分で考えて生み出すから自分のもの(記憶)となる(=生成効果)。このことを踏まえた上で、AIにどの部分を頼るのか、その信念を持っておくことがキモだと思います。人類の進歩という視点では、新しい技術を活用することは当たり前です。その上で、AIの限界を理解して、自分で考えて生み出す努力(elaboration)をおろそかにしないことが、人類がブレークスルーを起こしてきた歴史を考えると、当然の帰結になると考えています。

(文責:大井)