考える(推論) ~心理学と勉強法 2023~

学問ノススメのブログ 心理学と勉強法の中で、多くの皆さんから興味を持って頂いたブログを隔週で紹介するシリーズです。今回は、考える(推論)について説明します、

考える(推論)

知っている知識(既有知識)だけでは、新しい世界が広がりません。持っている知識を活用して新しい知識を獲得するために考えます。考えるときに、ある事を前提として何らかの結論を得ることを推論と呼びます。推して測り、自分(心)を諭す。ということでしょうか。帰納法や演繹法は、推論の一つの方法です。

 帰納的推論

帰納的推論とは、いくつかのことから一般的にこうだろうと考えるような推論の方法です。イギリスの哲学者フランシス=ベーコン(英、1561~1626)が唱え、ロック(英、17世紀)やヒューム(英、18世紀)により発展した哲学(経験論)と言われています。帰納法自体はご存知の方がほとんどだと思います。帰納的推論で気をつけなければいけないことは、事例からの推論なので、そこに共通点があったとしても推論の結論が必ずしもすべてに当てはまる正しい推論とは限らないことです。

 

帰納法的な科学的推論として、ニュートンの万有引力が逸話として挙げられることがあります。万有引力の発見はりんごが木から落ちるのを見て、全てのものには重力があるのかもしれない、と帰納的な推論をニュートンがしたことがきっかけとなったという逸話です。

 

 

アブダクション(仮説型推論)

ただし、この逸話を帰納法的推論ではなく、別の推論と考えるべきという考え方があります。この説では、こういう推論をアブダクション(abduction、仮説型推論(注))と呼びます。りんごが木から落ちる現象はすべての人が目にしていたはずです。なぜ、ニュートンはそこから万有引力の法則を導き出したのか?そこには、ニュートンだけが持つことができた仮説(ひらめき)があった。普通の人から見たら、何も驚くことではないけれども、ニュートンは、「あれ?」と思った。「なんでリンゴって落ちるんだろう?」って。

 

 

そこから仮説をつくっていくわけです。「ひょっとして、地面と物体の間でなにか引き合う力が働いているんじゃないか?」「だとしたら、あのリンゴも、このリンゴも、それ以外の物体も全部地面に落ちるという説明がつくんじゃないか?」「『引き合う力』が働いているという仮説が成り立つのであればすべてのリンゴは落ちて当然だ」そこから更に科学的な検証や推論を進めて「この世界全体になにか、惑星同士すら引き合うような力が働いているんじゃないか?」即ち、万有引力という新しいアイデアを打ち出したという推論法です。

 

コペルニクス 地動説

 

科学的な発明とか発見、大きなパラダイムシフトになったような発見には、アブダクション(仮説型推論)が関与していると思います。そして、莫大なデータの高速処理に長じているAIが苦手な分野、人間が秀でている分野ではないかと思います。

(注)チャールズ・サンダース・パース(アメリカの哲学者、論理学者。1839-1914)が提唱

演繹的推論

演繹的推論とは、あることが正しいことを前提にして、その前提からきっとこうだろうと考えるような思考のことです。演繹法の一つとして三段論法が有名です。

”すべての人は死ぬ。ソクラテスは人だ。だから、ソクラテスは死ぬ。”という論法です。(三段論法はアリストテレスが唱えた論理学で言及されています。)

 

ラファエロ作 「アテナイの学堂」

 

大学の入学試験では、多くの場合、公式や定義の知識を元に個々の具体的な問題に当てはめることができるかどうかが試される問題が出題されますので、演繹的な推論を試されている場合が多いです。

数学Ⅰで学ぶ「命題と条件」を思い出してください。逆や対偶という言葉を覚えていますか?推論する上での一つの道筋を示しています。高校数学では論理的な考え方、帰結を学ぶ基本的な方法論を学んでいるわけです

 

 

(文責:大井)