知識のモデル ~心理学と勉強法 2023~

学問ノススメのブログ 心理学と勉強法の中で、多くの皆さんから興味を持って頂いたブログを隔週で紹介するシリーズです。今回からは、「考えて理解する」という複雑な仕組みについて、説明します。

 

知識のモデル

人間は生まれてきてから、どのようにして新しい知識を身につけ理解することができるようになっているのでしょうか?このような複雑な分野でも、認知心理学での解明が進んでいます。今回は、”理解する仕組みを理解する”前提として、知識のモデルについて説明します。

1. 2つの分類(顕在的な知識と潜在的な知識)

認知心理学では、知識を宣言的知識と手続き的知識に分類しています。宣言的知識とは、事実に関わる知識(knowing what)で、情報を意識的に利用することができる顕在的な知識です。数学の定理や、英語の文法、ゲームのルールやマニュアルも宣言的知識にあたります。手続き的知識とは、行為に関する知識(knowing how)「どのように」ついての知識、情報を必ずしも意識的に利用することができないような潜在的な知識です。反復練習で意識せずに秩序だった行動が可能になることと関係しています。自転車の乗り方や、泳ぎ方、数学の問題の解き方(注:ただし、解き方が知識となるためには数学の宣言的知識(定理や公式)が必要)が手続き的知識にあたります。

 

 

ここで重要なことは、知識の中にも「顕在的」と「潜在的」な知識があるということ、他人に文章や言葉で説明しやすいもの(文法やマニュアル)と、説明しにくいもの(自転車の乗り方や泳ぎ方)があるということです。

2.知識になるモデル(階層的ネットワークモデル、活性化拡散モデル)

宣言的知識が保持(記憶)されている状態の説明として、階層的ネットワークモデルや活性化拡散モデルがあります。階層的ネットワークモデルとは、下の図のように、知識が階層的な構造で、ネットワークによってつながっているという考え方です。知識の構造化ですね。

 

知識構造の例

知識構造の例(出典 Collins & Quillian, 1969 認知心理学 箱田裕司他 有斐閣 2010 P.193)

活性化拡散モデルとは、階層的ネットワークモデルを改良したもので、下の図のように、知識間の連想関係が強いものほど近い位置に配置されているという考えです。このモデルの特徴は”ある知識が処理(活性化)されるとその活性化がネットワークを通じて他の知識に次々と伝わっていくという考え方”です。脳が考えて理解する過程で、意味的に関連が強いものが速く正確に処理されることを説明することができます。処理水準モデルで「深く考える」ことで知識が根付くことを説明しました。

 

活性化拡散モデルによる知識構造の例

活性化拡散モデルによる知識構造の例(出典:Lachman et al., 1979:高橋雅延, 2008 認知心理学 箱田裕司他著 有斐閣 2010 P.196)

 

3.深く考えて構造化すること

深く考える(処理する)ことで、今まで身につけた知識とのネットワークが活性化されて強い繋がり(ネットワーク)となり、整理された知識(構造化)となるということです。とても精巧な仕組みだと思います。

 

(文責:大井)