知識を獲得するモデルとは ~心理学と勉強法 2023~
- 2023.10.6 | 心理学と勉強法 高校生・受験生の学び(現在)
学問ノススメのブログ 心理学と勉強法の中で、多くの皆さんから興味を持って頂いたブログを隔週で紹介するシリーズです。今回は、”知識を獲得するモデル” について紹介します。知識を獲得するモデルのうち、手続き的知識(「どのように」の知識)、例えば泳ぎ方や自転車の乗り方、数学の解き方のような知識を獲得するモデルに関する説明です。手続き的知識を獲得するモデルには、プロダクションシステムやコネクショニスト・モデルがあります。
プロダクションシステム
プロダクションシステムは、条件(Condition)を満たす場合に、行為(Action)を実行せよというルール(プロダクションルール)に基づいて知識獲得が実行されるモデルです。コンピューターの情報処理はこのモデルです。情報の「条件照合(得られた情報を記憶と照合)-競合解消(ほかに選択肢がないかチェック)-実行」というアルゴリズムを用います。
ルールの設定が単純なので、作成しやすいモデルです。一方で、ルールが単線的ですので知識全体の構造を把握しにくいという欠点があります。また、人間は情報処理を単線では行わず並行して行っているので、人間の認知過程を説明するには限界があります。が、認知過程を理解して、コンピューターなどで機械的に再現する意味で有益なモデルです。
コネクショニスト・モデル
コネクショニスト・モデルは、手続き的知識と宣言的知識の獲得モデルを統合するモデルとして考案されました。人間の脳が多様な情報をほぼ同時(並列)に処理していることから考え出されたモデルです。パソコンのCPUは1秒間に20億個の命令を実行できます。一方、神経細胞が活性化するには約0.03秒かかります。脳は一つの情報を順番(系列的)に処理するのではなく、同時(並列的)に処理しているようです。
コネクショニスト・モデルは、神経細胞の大規模な並列処理の相互作用の結果、ネットワーク全体として複雑な情報処理を実行し、知識を獲得するという考え方です。ネットワークは、情報処理後の出力と正答との誤差に基づいて、入力層→隠れ層→出力層という情報の流れと逆の順番で、神経同士の結びつきの強さを修正(=学習)し、正答を導きだす神経ネットワークが強化されていくという考えです。人間の脳神経系は、1000億個の神経細胞から構成され、個々の神経細胞は1万個の神経細胞と結びついています。学習によって、不要なネットワークが整理され、正解への道が、太く広く整備されるということです。機械学習という言葉は、コネクショニスト・モデルによる脳神経の学習を機械にさせることで、複雑な情報処理(音声認識、画像認識など)をコンピューターにさせるモデルです。Googleが画像認識で猫を認識できた!という話題がニュースになりました(2012年)現在のAIによる様々な成功、物まね音声や、似顔絵の生成、質問に正確に応える生成系AIも、超大量のデータを機械学習することで実現しています。
記憶の章で説明した物理学者の熟達者と初学者の違いについても、脳神経のネットワーク(道)が整備されているかどうかの違いとしてイメージできます。ゴールまで1本の太い道と、あちこちに迷い道をたどりながらゴールに行きつく細い道が、それぞれの脳にできているというイメージです。人間は、大量のデータを機械のように瞬時で消化できませんが、同じ仕組みを備えている凄いパワーの演算処理装置を備えているということです。
まとめ
脳は、知識をどのように獲得しているかは以下のようにまとめることができます。
1. ネットワークを構築している
2. 関連の強い知識ほどしっかりつながっている
3. 知識の獲得に、トライアンドエラー(学習)を繰り返している
4. 学習によって、太く広い道(ネットワーク)を作っている
(文責:大井)